写真・図版
マナスル最終キャンプの7500メートル地点にてパートナーの吉田智輝くん(右)と=2024年9月25日午前7時30分、本人提供

野村良太の山あり谷あり大志あり:17

2022年に前人未到の北海道分水嶺(ぶんすいれい)積雪期単独縦断を達成し、28歳で植村直己冒険賞を受賞した道内の山岳ガイド野村良太さんのコラム(紙面は北海道支社版掲載)です。

 午前2時半。辺りはもちろんまだ暗い。前日の午後6時半に標高6600メートルのテント場を出発してから8時間ほど登ってきた。想定よりも大幅に時間が掛かってしまった。ここが引き際か。明日から3日間で3メートルの大量降雪があるという。これ以上進むのは危険だと判断し、7500メートルの最終キャンプ地点での撤退を決断した。

 暗闇の中での下山は危険なので、明るくなるまでビバーク(緊急露営)する。気温はおそらく厳冬期の北海道とさほど変わらない。そう感じるのは、酸素マスクを経由して濃い酸素を吸えているからかもしれない。少なくとも酸素ボンベがなければ、これほど落ち着いてビバークなどしていられないに違いない。明るくなるのを待つ間、なぜ今回、ヒマラヤ山脈のマナスル(8163メートル)に登頂できなかったのかを考えた。

 一つは悪天候だろうか。災害級の降雪予報によって登頂予定を10日近く前倒しせざるを得なかった。本来の計画では、その期間でより高度に順応し、無酸素での登頂をめざしていたが、それはかなわなかった。

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 いや、悪天候は確かに不運だ…

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